『最前線』の話

 マンガや小説を掲載する商用サイトは数ある中、DRMを廃して読者がコピー&ペーストや固定URLへのリンクをできるようにしたサイトが今月登場した。星海社の『最前線』がそれだ。

http://sai-zen-sen.jp/

 ただ、オープン時にあるニュースサイトが「著作権フリー」と誤って伝えてしまった(ただし私の記憶もここは曖昧)がために、別の意味で一部話題になってしまった。実際のところは、コピー&ペーストも著作権法30条(私的複製)の範囲で自由にというのが『最前線』運営側の趣旨であった。

 で、それの余波なのか、サイトを運営する中の人からこんなつぶやきが出て来た次第。


http://twitter.com/FAUST_editor_J/status/25124943825
『最前線』の宣言文を一部修正することにしようと思う。「あなたは『最前線』のコンテンツ内のすべての文章と画像を思うがままに「コピー&ペースト」できます。」を「あなたは『最前線』のコンテンツ内のすべての文章と画像を私的利用の範囲内において思うがままに「コピー&ペースト」できます。」

http://twitter.com/FAUST_editor_J/status/25125106609
DRM(デジタル著作権管理)フリー」と「著作権フリー」はまったく別の意味なのだけれど、ネット業界の人の中にもこれらの区別がついていない人がいらっしゃることが次第にわかってきたので、先ほどの文言の修正は、格好悪い文章になってしまうわだけれど、必要だと判断した次第です。


 上記にある、『最前線』の「宣言文」とは、おそらくここのことだろう。
http://sai-zen-sen.jp/about.html

 「思うがままに『コピー&ペースト』できます」とあるから、著作権法上、私的複製の許諾を意図しているとは読める。一応「複製」の許諾ではあるけれど、単純に複製権に基づき許諾を出すのとは違い、さすがにその後の頒布までは許諾してるとは読めまい(サイトの趣旨からして)。同様に、この「思うがままに」が自動公衆送信(と送信可能化)の許諾を含むものではないとも解釈できる。とはいえ、「思うがままに」は誤解を生み得る書き方だったのではないかと思う。(上記引用の通り、修正予定とのこと。)

 著作権は、権利を持った者が他者の行為を「禁止」するだけでなく、「許諾」もできる法律だ。この例で言えば、『最前線』に掲載されたマンガなどの著作権を持ってる人が、ユーザーがコピペで「複製」したり、ネットに転載する「自動公衆送信」を禁止/許諾できるという話(ただし私的複製には権利が及ばないので、それを阻止しようとするとDRMに頼るしかないが)。この「許諾」できるというのがくせ者で、上記の宣言文がマズい書き方になっていれば、「許諾してもらえた」と勘違いする読者も出かねないわけだ。

 コンテンツを公開する側で自ら範囲を決めて、この条件で「自由に」使ってね、というやり方をする方法には前例がある。クリエイティブ・コモンズ(ここでは詳しく書きません)がそうだし、そしてもう一つ画期的だったのがゲーム会社・ファルコムの「音楽フリー宣言」だ。この宣言の書き方が巧かった。
http://www.falcom.co.jp/music_use/

 「フリー」と高らかに宣言する一方で、どのような条件で使っても良いのかガイドラインと規程を用意していたのである。この書き方をしていて、さすがに「著作権フリー」だと読むような人は、「よく読めバカ」と言われても仕方なかろう。また、ファルコムは、使う音源は正規に購入してね!と釘を刺すのも忘れてなかったあたりも良かった。今では、他人が違法アップロードした音声/画像/映像を使ってマッシュアップしたと思しきコンテンツも多くネットで流通しているからだ。

 さて、『最前線』の宣言文に戻って考えてみると、ここでマズかったのは「あなたの『コミュニケーション』のために。100%DRMフリー。」とやってしまった段落だろう。ここは、「『最前線』の作品を通じて、メールやブログ、Twitterなどを介したコミュニケーションで盛り上がりましょう」とも締めくくってしまっている。

 実は、「フリー」にされた範囲は「『右クリックの禁止』は禁止、URLの直接リンクはもちろんすべてO.K.」の部分に書かれている。URLリンクはともかく、画像をコピペしてまでコミュニケーションを使おうと思うと、それを自動公衆送信するところまでしないと無理なのだが、そこまで『最前線』が許諾しているかは、実はサイト説明では読み取れないわけだ。

 しかし、意図を誤読すれば許諾してるかのように読むのは可能だ。この部分に原因があったと俺は思うし、そこを誤読するのが、読み手の「リテラシー」の問題と切り捨てて良いものかと少々疑問が湧いた。

 まぁ、例の文章は私的複製の範囲内である旨を追記されるそうなので、私の所感を書きとどめておくだけにするけれども。

 ちなみに、Q&Aでは、ダウンロードをあくまでの私的複製の範囲内で認める旨を書いてある。この件を自戒とするならば、他の解説ページまでよく読んで判断しろよとも思わなくもない。
http://sai-zen-sen.jp/faq.html