テレビ東京『ワールド・ビジネス・サテライト』特集「ネット時代に”コピー”とどう向き合うべきか?」


http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/highlight/index.html
http://japan.cnet.com/blog/kirifue/2008/02/16/entry_25005209/


 危うく見逃すところだったんだが、一部で話題になってた WBS の特集を見ることができた。ブログで感想を書かれている方がいらっしゃったので、それについてもリンク。


 大体は上のブログで書かれている内容なのだが、ちょっと足りないかなと思う部分を箇条書きで補足しておきたい(もっともテレビ番組の内容というよりは、ブログ記事そのものへの補足かな)。


●筆者氏は JASRAC と包括許諾を結んだサイトとしてソニーの 「eyeVio」 を挙げておられるが、こうした動画投稿サイトで JASRAC と包括許諾契約を結ぶという道筋を付けたのは YouTubeニコニコ動画である。また、この事実は角川による YouTube での配信と対比して語られるべきものではなく、むしろこれを補完する性質がある(後述する)。
●角川が許諾*1を出した映像であっても、 YouTube 等で配信するためには使われている音楽の配信許諾も同時に得なければならない。この事実は WBS の映像でも触れられており、角川が残すべきと判断した映像については権利処理すべき相手との調整もするとのことだった(具体的な話は無かったが)。
YouTubeJASRAC との包括許諾を現実のものにできれば、角川が権利を持っている映像の配信にかかるハードルは一気に取り払われる(ただし別種の非許諾著作物が使われているような場合にはさらなる処理が必要)。実はエンドユーザーだけでなく、コンテンツユーザーにとっても使える話だったりする。彼らもまたユーザーである、と。
●角川が自らの意思でここまで大胆な決断ができるというのも、この会社が映画著作物という〈製作者が原始的に著作権を握る〉特殊な構造のおかげである。なおこの規定は現行著作権法下のもので、旧大映で製作された映画のように旧著作権法下で作られた映画著作物は「著作者」に著作権が当然発生するが譲渡契約を結ぶことで現行とほぼ同じ(著作者人格権・保護期間など細かいところで差異が生じる可能性がある)扱いができる(はず)。
●別の角度で言えば、角川は自分が置かれている特殊な立場を最大限に活かし始めているとも言える。映画著作物の著作権を製作者に握らせるというのは映画産業からの資本回収の要請に応えたものと説明されることが多いが(加えて映画産業の政治力の賜)、ここへ来て〈権利を集中させることで流通を促進する〉との題目が現実のものとなりかけているのだろうか。


 俺個人としては、こうした角川の決断は大事にしていきたい。こうして新たに始まった試みを育てていきたい。合法に使えるものは(違法手段で代替できたとしても)合法のものを選択していくことが肝要だろう。
 まぁ「閲覧権」とかいうトンデモ話には従来どおり批判的な立場を貫かせてもらうけどね。


 WBS の特集内では、 YouTube にアップロードされ角川の権利が侵害されているものと思しき映像について、角川内部で(角川歴彦氏も交え)チェックしていく様子も採り上げられていた。これが権利侵害をパトロールするギスギスした感じかと思いきや、「悪意がなければOK」みたいな かなり和やかな雰囲気だった(テレビカメラ用の演技だったりしてね。笑)。特に、普段は厳つい顔をしている角川歴彦氏がチェシャ猫みたいに表情を崩しながらハルヒダンスを講評する様子などは*2今回の番組の拾いものだろう。


 さて。最後に、冒頭で紹介したブログの文章について一箇所だけケチをつけておきたい。「放送された番組には『見逃し需要』というものが存在するのは確かだ。‥‥‥‥正式に観られるのならば、わざわざ違法サイトからダウンロードする必要はなくなる。利用者には法を守りたいという気持ちが少なからずある。人の著作権を尊重する心を持ち、コンテンツは価値があると認めた上で合法的に視聴すること、それができれば皆が幸せになれるのだ」との部分、俺ならたぶんこう書く。
 放送された番組には「見逃し需要」というものが存在するのは確かだ。──(適切な仕様のものを合理的な価格で)正式に観られるのならば、違法に配信されたものを(探す手間をかけて)視聴・ダウンロードする必要はなくなる。利用者にはわざわざ法を破ろうという気持ちなど無い。それが合法的に視聴・ダウンロードできる手段が用意されているのであれば、他人の著作権を尊重しながら価値の認められるコンテンツに対価を(直接・間接のいずれでも)払うことはやぶさかでない。それができれば皆が幸せになれるのだ。
 俺がケチを付けたいところが判るかな? 実に些末的なところでしかないとは思うのだけどね。

*1:正確には許諾でなしに「黙認」ですな。

*2:「気持ち悪い」との声もあるが俺は許す(笑)。